東春西秋

Tôshun-Seishû

箏とチェロの為の邂逅
Begegnung für Sô & V’Cello

 (2016) 

この作品は、箏曲家・別所知佳氏の委嘱に応えた作品である。チェリスト・天野武子氏を介して最初に打診を頂いたのは2014年櫻花の頃。聞くと日本画家・守屋多々志氏の大作《ウィーンに六段の調》の御前にて演奏するに相応しい箏とチェロの二重奏曲を、とのこと。むやみやたらな和洋合奏とは一味違ったこのお話に動かされて二つ返事で引き受けると、早くも朧げに着想が芽生えたが、そこからじっくり寝かせ温め二年越し、2016年紅葉の頃に完成した。
発端となった四曲一隻の屏風絵《ウィーンに六段の調》(岐阜県大垣市守屋多々志美術館蔵)は、明治のなかば=19世紀末のウィーンにて、当時欧州一の大作曲家ヨハネス・ブラームスが戸田伯爵極子夫人の奏でる〈六段の調〉を聴いた、という逸話に基づく。別所氏のご案内を得て大垣にて拝見。広い画面に対斜状に配された二人。豪奢な紫の夜会服(イヴニング・ドレス)に身を包んだ戸田夫人の奏する〈六段の調〉が青い広間に細波のように漂い、眠気を誘うほどに穏やかな異国の雅びにも厳しく耳を傾ける黒ずくめのブラームス。ボクレット採譜による〈六段〉の五線譜を傍らに「何だこの楽譜は、いま聴く曲とまるで違うではないか!」と苛立つ晩年のヨハネスの心と姿、そんなこととは露とも知らぬ戸田夫人のやや浮き足立った一所懸命が、歴史の美化を経た逸話の奥に、見事に活写されていた。
本作「東春西秋(とうしゅんせいしゅう)」は、《ウィーンに六段の調》へ寄せた音による応答(レスポンス)、であると共に、そのまた前の八橋検校〈六段の調〉を本歌とする、もうひとつの和洋合奏之図/譜である。善くも悪くも晴れがましい文明開化の春に時めく日本と、ハプスブルク朝の終焉近き世紀末の秋に錆びゆくウィーン。初々しく春めいた心でたおやかに奏される〈六段の調〉に耳を傾けながら、二度と戻らぬ美しき惑いの年の追憶と、東方の情趣に促されたラプソディックな妄想に耽っては、秋めいた憂愁に沈む老境の魂。交わりそうで交わらぬ、しかし妙なる一期一会を、春秋の情調(エトス)に浸し、甘く苦いフモールで燻べて、不即不離(つかずはなれず)の箏とチェロに託した。

[委嘱]

 

別所知佳

 

 

[初演予定]

 

2017年11月17日 名古屋市 名古屋能楽堂