海の幸/天平の面影

UMI NO SACHI/TEMPYÔ NO OMOKAGE

〜蒲原有明の詩に拠る、ソプラノとピアノの為のニ連画〜

~ Diptych for Soprano & Piano; after KAMBARA Ariake’s Poetry~

 

2013

 

[ca 19 min]

 

詩:蒲原 有明

Text: KAMBARA Ariake

 

 

 

この作品は、近代日本孤高の象徴派詩人(サンボリスト)・蒲原有明(かんばらありあけ)1875-1952の詩に拠る歌曲である。テクストとなる有明の詩は、青木繁(あおきしげる)1882-1911の同名絵画「海の幸」(α)と、藤島武二(ふじしまたけじ)1867-1943の同名絵画「天平の面影」(β)に、それぞれ触発されたもの。海/天、水平/垂直、群像/肖像、鄙振/都振、益荒男(ますらを)/手弱女(たをやめ)…様々な次元で対を成す画(美術)と詩(文学)の境に、未聴の歌(音楽)を仮想・介入させることで、画・詩・歌の照応(コレスポンダンス)としての、音によるニ連画(ディプティーク)を企てた。

 

有明は、高踏の極みたるフランス象徴詩の洗礼を経つつも、記紀万葉の古より伝わる荘重な日本語を振い起す。その詩世界は、時の遠近法というべき巧みな語彙操作を通じて、神話的古代と同時代=近代が響き合う時空。強靭な美を誇る詩文(エクリチュール)とその行間に、母音唱(Vocalise)・咒言(Incantation)・歌唱(Lied)・朗唱(Recitation)・語謡(Sprechgesang)・朗読(Narration)と凡そ6段階に大別される多様な発声(パロール)を持って分け入り、封じられた世界に息を吹き込んで新たな生命を呼び覚まそうと試みた。日本語の淵源に纏わる神話的豊饒と文語体の生来的曲節を踏まえ、現在から光を照らし独自の方法と結ぶことで、諸時代が交響する“古くて新しい”日本語歌曲を志したものでもある。

 

α/βはそれぞれ独立した作品でありつつ、相互に引用・参照・註釈する連作である。おのおの楽曲の中程に到ると、αには水底乃祭祀-ミナソコノマツリ-(神楽歌・咒言による架空の祭礼)、βには異国乃音曲-トツクニノハヤシ-(失われた箜篌[くご]音楽による架空の奏楽)という、詩列に埋葬された音世界を“復元”する〈樂中樂〉が登場する。歌曲としての本筋はそれを契機に歪曲・浸蝕・解体され、詩歌そのものの根源(ルーツ)をも仄めかしながら、散け綾なす脈絡をふたたび束ね織り進む。

 

2013年春に作曲、同年11月第30回現音作曲新人賞本選会にて初演、富樫賞および聴衆賞を受賞。

 
 
[編成]
 
Soprano/Piano
 
 

[初演] 

 

2013年11月06日 東京都 オペラシティ・リサイタルホール (Sop:吉川 真澄 Pf:堤 聡子)

2016年07月16日昼 大阪府岸和田市 自泉会館 (Sop:吉川 真澄 Pf:大須賀かおり)【海の幸】

2016年07月16日夜 大阪府岸和田市 自泉会館 (Sop:吉川 真澄 Pf:大須賀かおり)【海の幸】

 

[献呈]

 

吉川 真澄

 

 

 

 

 (C)HIRANO Ichiro 2013