天探女

 

SAGUME

 

二十五絃箏曲


for 25 strings koto

 

(2012)

 

[ca 18 min]

 

 

 

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カゴヤ カゴヤ

コトヅケ ショウエ

ナニ コトヅケ

ツキノ ミカドニ

コウ コウ

イウトクリャレヨ…


カクヤ カクヤ

モノヅケ ショウエ

ナニ モノヅケヨ

アメノ ミコトニ

コウ コウ

イウトクリャレヨ…

 

 

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天降る比沼(ヒジ)の天女、天佐具売(アメノサグメ)、迦具夜(カグヤ)姫。

水辺に機織る棚機津女(タナバタツメ)、瓜子(ウリコ)織姫、中将姫。


天、月、鳥、機、歌…そんな言葉を介すれば俄に不思議な円環を成す機織姫(ハタオリヒメ)/羽鳥女(ハトリメ)/鳥巫女(トリミコ)の物語が、吾が風土には連綿と折り重なる。とりわけその原像の一つが、記紀にも登場する天佐具売(アメノサグメ)=天探女(アマノサグメ)。


天探女は、天津神(アマツカミ)とも國津神(クニツカミ)とも噂され、謎めく両義性に満ち満ちた存在。神話の中では、高天原より出雲平定に派遣されながら役目を忘れ還らなかった天若日子(天稚彦=アメノワカヒコ)に、天意裏切る矢=天之加久矢(アメノカクヤ)を射させた逆神。民話においては、人々に悪さするもどこか憎めぬ愛嬌湛えた山姥(ヤマウバ)、あるいは天邪鬼(アマノジャク)でもあると謂う。


本作〈天探女(サグメ)〉は、吾が列島の神話・伝説・物語に遍在する鳥女神の系譜の背後に、堕天女伝承の原形たる天探女の“失われた”物語を幻視し、輻輳する糸の如き伝説群をその脈の綾に織り籠めようと企てたものである。曲は多層の序破急に拠りつつ、入れ子のように襲なった相異なる物語が、その進行を互いに見張り、妨げ、奪い合うように展開する。


「いつか二十五絃箏の新作を…」と08年頃より飽かずお声掛け下さった横山佳世子氏の委嘱に応え、その全面協力のもと12年春夏に作曲した。持て余すばかりのエネルギーを抱える氏の、烈しくも深い箏音楽への意志と宿命に触発された作品である。

 

 

 [委嘱]

 
横山 佳世子
 
 

 [演奏記録] 

 

2012年11月09日 大阪市 ムラマツリサイタルホール新大阪 (二十五絃箏:横山佳世子)

 

  (C)HIRANO Ichiro 2012